2013/04/25

狙撃映画の話。

『ライフルバード 機動隊狙撃手』が発売されました。
『ちょっとかわいいアイアンメイデン』一巻が発売されたときは「おすすめ拷問映画」みたいな更新をしたので、今回も新刊の内容に合わせて「おすすめ狙撃映画」の話を書きます。

 前にこのブログで、いい銃撃戦とは何か、という文章を書きました。そこで大事なのはやはり身体感覚と距離感だ、と。狙撃の描写において最も大事なのは「距離の表現」です(ある意味当たり前のことなんですが)。
 たとえば、テレビゲームのTPS。サードパーソンシューティング。つまり三人称視点シューティング。これは一人称のFPSと並んで海外で人気のあるジャンルです。『バイオハザード4』の大ヒットとそれに影響と受けたといわれる『ギアーズ・オブ・ウォー』の登場によって、今でも安定してTPSは作られています。


(そういえば、最新作ジャッジメントクリアしました。テンポのいいゲームです)

 このTPSのカメラワークって気持ちいいんですよ。肩越しの視点で、主人公が銃を構えて敵を撃っている。すごく距離感がつかみやすい視点なんです。人間の本能にはまだ野生動物を狩猟して暮らしていた頃の記憶が残っていて、「自分」と「獲物」の位置関係を把握するというのはとても大事なことで、そこをきちんと押さえた映像はどうしようもなく気持ちいい。この「肩越し視点」のカメラワークを効果的に使った代表的な銃撃戦映画がマイケル・マンの『ヒート』です。このブログでは何度も出てくる映画ですね。

 で、狙撃です。狙撃を映像でやる場合、特殊な「距離感」が必要になる。
 遠くから撃つ。その「遠さ」をいかに見せるか。
 これが難しいのは、映像で距離感を出そうとすればするほどお金がかかるという事実。映画の野外ロケには許可がいるし、広大な空間を長期間閉鎖しておくことはできない。となればセット撮影ですが、五〇〇メートルを超えるロングレンジを再現するのには当然限界があり、監督によっては狙撃シーンを「役者のアップを交互に繰り返すようなカメラワーク」でごまかすことになるわけです。そういう狙撃はあんまり印象に残りません。これから紹介するのは、映像における狙撃描写の様々な方向性です。
 狙撃手映画の入門編といえば、ザ・シューター 極大射程』や『山猫は眠らない』、ジュード・ロウの『スターリングラード』あたりでしょうか。他にも掘り出しものはないか、探してみました。もちろんどの映画にも銃や狙撃に関するディテールのミスは散見しますが、僕は欠点よりも長所について書くほうが好きです。


『ハート・ロッカー』
 掘り出しものとかいいつつ、まずは有名どころで。
 基本的には爆弾処理班の映画なんですが、中盤に狙撃対決の場面があります。
 ここで距離感と身体感覚を刺激するのが「銃声」です。よくできてるんですよ。たいていのライフル弾は超音速なので、着弾のあとに銃声がきます。つまり「音」でも「距離」は表現できるわけです。目の前でいきなり兵士が撃たれて倒れて、何が起きたか理解できないほんの一瞬の「間」。これが恐怖と緊張感を煽り、効果的な遠景もタイミングよく挿入されて、見事な狙撃シーンとなりました。
 見逃してはいけないのは、バレットを構えて持久戦に入った兵士たちにまとわりつく「ハエ」の描写。目のすぐ近くをハエがうろついても兵士たちは気にもしない。この描写によって戦場の特殊性や兵士たちの緊張感が皮膚感覚として伝わってくる。そして持久戦の合間に飲むジュースの美味そうなこと! こういった肉体言語の表現が、『ハート・ロッカー』狙撃シーンの完成度をより高いものにしています。


『山猫は眠らない4』
 2作目、3作目がいまいちな出来だったため、この「4」は最初からチェックしていないという人は意外と多いのではないでしょうか。でも、僕はこの映画がわりとお気に入りです。
 中盤、1作目でベケットの相棒だったミラーが射撃教官として登場。そして主人公はベケットの息子!(狙撃小説の第一人者スティーヴン・ハンターの「スワガー・サーガ」と少し似たシリーズ展開になってきているのが面白いです)
 ミラーが主人公に狙撃を教えるシーンでこんな会話があります。
「距離は?」
「200ヤード」
「なぜわかった?」
“Through the scope.He's 10mils high”
(スコープを通して見ると、やつは10ミルの高さだ)
 このセリフが、吹き替え版や日本語字幕では上手く反映されていません。しかし、英語でははっきりと上記のように言っている。
 1ミルは、1000メートル離れた場所から幅1メートルのものを見たときの角度を示します。狙撃手たちはスコープに刻まれたミル単位のドット(ミルドット)を使い、敵の大きさや敵までの距離を測定する(とはいえ、最近は測距用のレーザーもどんどんコンパクトになっているし、iPhoneにダウンロードできるような射撃補佐ソフトも出てきているので、ミルドットの使用頻度は減っているかもしれません)。
 さりげないセリフですが、こういうところに制作したスタッフの志の高さがちょっと出ているなー、と思うのです。
 狙撃描写を生理的に気持ちよく描くためのテクニックのひとつとして「破壊力」の表現があります。この映画の見どころはやっぱりツルベロ社の12.7ミリ狙撃銃。盛り上げてくれますよ!
(『山猫は眠らない4』予告編)



『電脳警察』
 カンフーだけでなく、昔から銃撃戦にも強い香港映画。この『電脳警察』はちょっと昔の映画で、ゲーム好きのややボンクラなIT系ビジネスマンが、CIAがらみの陰謀に巻き込まれていく内容。シンガポール合作。狙撃シーン自体は短いのですが、そのぶん強烈! アンチ・マテリアル・ライフルで、容疑者護送中の警察車両にボコボコと大穴を開けていきます。大口径ライフルの破壊力を考慮すると、車両を蜂の巣にするのは「正しい使い方」です。たくさんありそうなのに、意外と映画ではあまり見かけないんですよね、そういうシチュエーション。アンチ・マテリアル・ライフル連射の他にも、ナイフピストルやアタッシェケース収納MP5などが登場し、銃器好きなら一度見ておいて損はない内容!
(『電脳警察』予告編)



『スナイパー:神槍手』
 僕が最近観たスナイパーもののなかでは一番好きな一本かも。
「スナイパー」というタイトルの映画はたくさんありますが、これは香港映画枠です。狙撃銃を抱えた特殊部隊が、香港の美しい街並みを舞台にアクションするという絵面だけでも高得点。狙撃を演出するのには距離感が重要であり、距離感を出すためにはカメラを引いた「遠景」が必要になり、その「遠景」が力を持っていれば自然とそれは優れたシーンになり得るわけです。香港の風景は、都市型スナイパーを描写するのにぴったり。
 あと、この映画には大事なポイントがあります。
 それは、スコープを覗いても「片目をつぶらない」こと。
 プロのスナイパーたちは、両目を開けたまま狙いをつけます。これは、片目だけを閉じるともう片方への負担が増し、神経が疲れやすくなるので、それを防ぐためだとか。狙撃関係の本にはよく書いてある知識なのですが、実践している映画は本当に少ない! そういう意味ではこの『スナイパー:神槍手』は貴重な映画です。


『ドラゴン・スクワッド』
 ストイックな狙撃もいいのですが、たまにはとことん派手さを追求したものがあってもいいんじゃないでしょうか。この映画の狙撃手対決は、ディテールは雑ですがとにかく派手! そしてスタイリッシュ! 思いついたことはなんでもやっちゃう、いかにも香港らしいサービス精神旺盛なポリスアクション。リアリティの追求には限度があるので、美しさにこだわった銃撃戦バレエに特化するのも一つの方向性だと思います。
(『ドラゴン・スクワッド』予告編)

スポンサーサイト