2011/09/02

Rebisさんの単行本

『武林クロスロード』でお世話になったRebisさんの単行本が発売中。
 早々と重版がかかったようでめでたい! お祝いの意味も込めて、Rebisさんの本に寄稿した解説文を、ブログ用に書きなおしたものを掲載します。

ふたなり迷宮王女~プリナと淫魔の迷宮 (OKS COMIX)
(成年向けなので未成年はクリック禁止で)

 少女たちが地下迷宮で様々な難関を潜り抜けていくファンタジー。
 もともと僕はRebisさんの漫画の大ファンで。
 こうやって単行本にまとまるとさすがに読み応えがあります。やっぱり面白かった!
 この漫画の魅力を伝えるためにちょっとだけ脇の話から進めていきますね。
 僕にとってファンタジーといえば、ロバート・E・ハワードの小説です。シュワルツェネッガーによって映画化もされた、〈キンメリアの英雄コナン〉シリーズ。リン・カーター(訳、中村融)による『ファンタジーの歴史』(東京創元社)の中で、コナンシリーズはこう紹介されています。
(一部引用)
 ハワードが書いたのは、すさまじいまでの活力がみなぎった躍動的でカラフルな小説だった──血なまぐさい戦闘、筋骨隆々の英雄、野蛮な女たちであふれかえった物語だ。

 この文章は、Rebis作品にも使えるものだと感じました。迷宮王女シリーズの場合、「血なまぐさい戦闘」のかわりに「体液がほとばしるパワフルなセックス」となる。フロイトの言葉を引くまでもなくエロスとタナトスは表裏一体のものなので、戦闘とセックスを置き替えても意味は通じる。
 ロバート・E・ハワードのバーバリアン・コナンシリーズと迷宮王女シリーズには、他にもいくつか共通する魅力があります。そのうちの一つが、「世界観の作りこみ」です。ハワードは、コナンが活躍するキンメリアの世界を本当に細かいところまで設定しました。国家、文化、民族、地理、風俗、歴史──こう書くと当たり前のことのようですが、標準的なファンタジー小説よりも圧倒的に情報量が多いんです。たとえばこんな感じ。
 創元推理文庫の新訂版コナン全集より一部引用で。

 もともとハイポリアの諸部族には、南方への肥沃な土地への移住を望む欲求があったが、人口の増大に伴って、その傾向がますます強まった。次の数世紀は、移動と侵寇の時代であった。古来、人類世界の歴史は、民族間の移動で絶えず場面を転回するパノラマといえるのだ。
 たとえば、その五百年後における大陸の情勢を見るがよい。黄茶色の頭髪を持つハイポリア人が、南方と西方へ移動を続け、団結を欠く弱小氏族の多くを征服し、被制服氏族の血を吸収することによって、もともと古い種族の末裔であるものたちが、新しい特徴を示し始める。この混成人種が、ふたたび新しい純血種族の侵寇を受け、ついには掃討される。


 ──以上のような設定が、原稿用紙何百枚分も用意されています。もちろん、そのすべてが本編に登場することはありません。あくまで、物語のテンポを崩さないように、いわゆる裏設定が顔を出すのは必要最低限です。
 ファンタジーにおいて世界観は巨大な柱と言えます。しかし一歩間違えると設定ばかりに凝って、物語としての面白さを失ってしまう危険性も胚胎している。物語性破綻のリスクを回避しつつ、いかに世界を創造するか──。その重要性は、先ほども登場したリン・カーター著『ファンタジーの歴史』の中でわかりやすく説明されています。

 この短編の中で、若き英雄レオスリックがドラゴンのサラガヴヴェルクを倒し、霊剣サクノスを手に入れる。それがあれば邪悪な魔術師ガズナクを滅ぼせるからだ。ここから、スパイ小説の作者が頭を悩ませなくてもすむ問題を、ファンタジー作家が解決しなければならないことが明らかになる。読者と同じ世界を共有するどころか、ファンタジー作家は新しい世界の創造に関わるのだ。しかも彼が話題にしているものに読者が慣れ親しんでいるとは当てにできないのだから、ひと筋縄ではいかない。というのも、じっさいに途方もなく遠くへ旅行していないかぎり、読者がドラゴンを目にしたことは──もっとも珍奇な動物園でさえも──ありそうにないし、邪悪な魔術師に出会ったこともありそうにないからだ。あるいはサクノスのような霊剣は、この世界の一番有名な博物館でさえ一般公開されていないからだ。
(中略)
 あらゆるファンタジー作家が読者に頼まなければいけないことは、コールリッジの名言を借りれば、「自発的な不信の停止」である。


『迷宮王女』シリーズの世界観は、
「大母神権制の王家に伝わる最強の避妊魔法」
 といった、ちょっとした台詞からも伝わってきます。台詞は断片にすぎませんが、背景がしっかりと作りこまれていることがわかる。父権社会ではない、女王制である、避妊魔法があるということは、王家の妊娠は重大な意味を持つらしい、などなど……。これがきっと、「自発的な不信の停止」を喚起するための重要な装置になる。
 他にも、この単行本に収録されている番外編で、冒険者のパルハが「いいか、こいつは族長だ。オークってのは強い奴が弱い奴に乗っかるから……」と捕虜を品定めするシーンがあって、僕はそのくだりが大好きなんですね。短い台詞で、『迷宮王女』の世界におけるオーク族の設定とエロスを同時にさりげなく表現されている。随所に散りばめられた世界観の作りこみを示すサインは、ただの小道具ではなく、そのあと行われる行為を盛り上げるのにも一役買っている。
 Rebis作品のキャラクターデザインには、確かな情報量と肉体的な説得力がある。キャラクターたちの体形の違いは、種族の違いを表現しています。劇中登場するブラックオークたちは戦士階級なので(魔法が得意そうにも見えない)、わかりやすく筋骨隆々です。大量に登場するサキュバスたちも、その外観だけでなんとなく役割や得意技がわかるようになっている。背景のモブキャラにいたるまで裏設定を匂わせるようにデザインされている。そしてすべてが、架空のファンタジー世界に血と肉を通わせるために必要なことなのです。

『迷宮王女』シリーズの魅力──内側からわいてでくるマグマような性欲と獣性の祭典。緻密な世界観と圧倒的なオリジナリティ。本能を刺激する驚くべきシーンの数々。なにしろ純粋な意味では男性が一人も登場しないという特殊な成年漫画なので、好き嫌いははっきりわかれるでしょうが、一人でも多くの人に読んでほしい一冊です。
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