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2011/07/21

映画『ザ・タウン』の話。


 映画『ザ・タウン』予告編。
 ずいぶん前に劇場で観賞。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』に続いて、ベン・アフレックは監督として手堅い演出を行い、傑作を撮ってくれました。ブルーレイ版は追加シーンもあるとのことで、ラストシーンが変わっているんじゃないかと期待して再生。二度目の観賞。ネタバレになると申し訳ないので、ちょっとぼかしながら書きますが、ようするに映画版と原作だと結末が違います。



 チャック・ホーガンの原作『強盗こそ、われらが宿命』上下巻の魅力は、丁寧なディテール描写と生き生きとした会話だと思います。読んでいるうちに、自分がボストン郊外チャールズタウンの住人になったような気分が味わえる。ちょっとだけ引用。短いやり取りですが、彼らの粗野な性格や、育った環境、さらに長く親しい付き合いだということも伝わってきます。

「ようやく黒幕のお出ましか」とジェムは言った。「デズ猊下は?」
「すぐに来る」とダグは言い、大昔の人種差別主義者がナイフで残した落書きの上にバッグを下ろした。
「シェリルだぜ」縮れ毛の黒髪を豹柄の髪どめでまとめた教師に、グロンジーが顎を振って言った。「あいつを見るたびに、三年生のクラスの集合写真を思い出す。だろ、ダギー? 『大草原の小さな家』みたいなフリルつきの服を着て、ピンクのビニール靴を履いて、前列中央に座ってた。両手を重ねて、両脚をきちんと足首のところで交差させて」
「行儀がよかったのはあれが最後だったな」とジェムが茶化した。




 そしてディテールの一例。どこまでが本当のボストンの銀行で、どこからが作者の創作なのはわからないところがありますが、強盗シーンのリアリティ・説得力にはひたすら圧倒されました。
(以下引用)
 外から見ると堅牢強固な金庫も、なかに入ってしまえばそれまでだ。ビニールで巻いた硬貨が大量に積まれた棚は無視し、紙幣の束を引き出した。札束をまとめる紙の帯が色分けされているので、ひと目で額面がわかる。五ドルは赤、十ドルは黄色、二十ドルは紫、五十ドルは茶色、百ドルはきれいな芥子色。ダグはときどき帯を外し、札束を扇のように広げて、染料袋やトレイサーが仕込まれていないか調べた。
 窓口係用の現金を収納する台車が四台、金庫の奥に並べてあった。それぞれいちばん上の抽斗には約二千五百ドルが入っている。ダグはそのすべてを取り出した。ただし、各仕切りの底にある『囮』紙幣だけは残した。紙で留められた二十ドルの薄い札束だ。最上段の抽斗は、窓口係が通常の顧客とのやり取りで現金を取り出す場所であり、強盗があった場合にまず空にされる場所である。


 こういう文章を読むと僕は本当に幸せになっちゃうんですよね。「囮紙幣」「きれいな芥子色」といった単語が強烈に印象に残ります。監督・脚本のベン・アフレックはきっちり原作を読みこんだらしく、こういった細部の描写も映像で再現されています。
 で、原作と映画の違いについて。
 まず気になるのは、中盤の現金輸送車襲撃シークエンス。映画版だと輸送車を路上で襲撃しますが、原作だとそれがマルチスクリーンの複合施設──いわゆるシネコン──「ブレイントゥリー10」で行われます。なぜシネコンから路上に変更されたのか? これはわかりやすくて、カーチェイスを入れるためなんだと思います。路上からならのほうがスムーズに車同士の対決に移行することができる。上映時間が二時間を超えているので、メリハリをつけるためにカーチェイスは確かに必要です。このあたりのアレンジは本当にお見事。原作通りやるべきところはそのままで、アレンジが可能な箇所ではしっかりとひと工夫。本当に理想的なやり方です。──でも、シネコンのシーンは面白い描写が多いので、もったいないといえばもったいない。原作は、実に映画の小ネタが多い。
 主人公が、襲撃の舞台となるシネコンを下見するシーンから、一部引用で。
(以下引用)
 建物のなかに入り、一般客のように入場券を買って、三角形のフライピザに金を使った。広いロビーのなかをぶらぶら歩き、『立ち入り禁止』の表示のある事務室のドアに眼を止めた。厚紙三枚から成る『インディペンデンス・デイ』のディスプレイ──ホワイト・ハウスが粉々に吹き飛ばされている──に半分隠されている。別の壁には、シドロ・コサリオという名の支配人の肖像画がかかっていた。
(中略)
 次回上映の『ザ・ロック』──老いた男が脱獄するアクション映画──のポスターに不吉な予感を覚え、ダグはあわてて劇場のなかに入った。『狼たちの街』が始まるまえの最後の予告編は『ツイスター』だった。スクリーンで牛が飛んでいく場面に人々が歓声を上げ、本編が始まってもまだその話で盛り上がっているあいだ、ダグは来るべきすばらしい週末に思いを馳せ、暗闇でひとり微笑んだ。


 この原作者は細部にこだわりますが、銃器にはそれほどの興味はないようです。逆に、ベン・アフレックはどうもガンマニアっぽい。映画であることを意識した派手な銃器がセレクトされてます。銀行強盗なのに、HK416やHK・UMPといった軍・警察系の装備。DSAのSA58・OSWカービンなんて珍しい銃も出てくる。とにかく重々しくて見栄えがいいもの中心。このあたりは見る人の趣味にもよりますが、銃撃戦を派手に仕上げるのは映画的には正しい判断だと思います。ただし、原作でも映画でもテック9が印象的な使われ方をするのは同じ。あと、この映画は、銃声の表現も素晴らしいです。銃の方向と人物の配置が、上手く計算された上で音が収録されています。

 原作と映画で最も大きく異なっているのはやはり結末です。僕は原作のラストのほうが美しいと思う。詩的で感傷的な終わり方です。それでも映画版のラストに納得がいかないわけではないし、著しくクオリティが落ちるということもありません。人によっては「映画版の結末のほうが好き!」というのも当然あるでしょう。情報量という小説の強みを生かした原作、画作りと音にこだわった映画版。とにかく僕のツボにはまる内容でした。おすすめです。
 最後に、ブルーレイの追加シーンについて。劇場版では銀行強盗の男たち(主人公含む)が夜の街を遊び歩く中で、ストリップを観賞するシーンがカットされていたことがわかりました。もったいない! そこは大事でしょう! 別にいやらしい意味ではなく、男たちのだらしない私生活と友情の表現という意味で!
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