2011/09/21

世界侵略:ロサンゼルス決戦

「撤退NO!」(←観た人には伝わる)
『世界侵略:ロサンゼルス決戦』観てきました。あちこちですでに言われてますが『インディペンデンス・デイ』じゃなくて『ブラックホーク・ダウン』でした。僕は映画の銃声や爆発音を聞くと心が落ち着くので、もう劇場で三回目。本当に延々と戦闘シーンが続くので、合わない人には合わないかも。
「軍曹は現場の要」という戦争映画の基本中の基本を押さえた人物配置で、エイリアンたちはまったく話の通じない「ただの敵」であり、不必要なドラマは限界まで排除されている。一言で表現するなら「潔い」映画です。
 脚本にはいくつか穴があります。後半の停電関係とか。
 でも、僕は派手な場面やわかりやすさのために多少の嘘をつくのはアリだと思っているので、全然許容範囲内でした。
 エイリアンの描写については賛否がわかれそうですが、腹に響く重低音をともなう音響とリアルな視覚効果がこの映画の「主役」と考えるならば、これも無視できる欠点です。
 宇宙人(モンスター)の解剖シーンがある映画に駄作なし、と勝手に思ってるんですがいかがでしょう。『エイリアン』とか『ブレイド2』とか。



 全体的な雰囲気がなんとなくゲームっぽいかもしれません。たとえば『コール・オブ・デューティ:モダンウォーフェア2』アメリカ陸軍第75レンジャー連隊のチャプター。『COD・MW2』と『ロサンゼルス決戦』の印象的な共通点といえば、(アメリカ国内の)典型的な住宅地の路地裏や庭を進んでいく完全武装の兵士、というビジュアルです。いかにも「9・11」後のフィクションという感じ。
 アメリカの映画雑誌で、『ランボー4 最後の戦場』が「素晴らしい! まるで『コール・オブ・デューティ』のような撃ちまくりの映画だ!」と評価されたことがあります。それを見て、ずいぶん時代も変わったものだと思いました。
 映画は、ゲームに影響を与え続けてきた。
 ところが、ここ最近は、ゲーム的な演出(いわゆるFPSのようなカメラワークなど)を取り入れる実写映画がどんどん増えている。エドガー・ライトの『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』なんて、まさにそんなゲーム世代の監督の仕事です。ターセム監督の『インモータルズ』の予告編を見ると、隠しようがないほど『ゴッド・オブ・ウォー』の影響を受けている。ゲームと映画が高いレベルで融合しつつある現状、その最先端の作品の一つがこの『ロサンゼルス決戦』ではないでしょうか。
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2011/09/16

新刊発売。


 陸上自衛官・入江公威(いりえ きみたけ)と極道の若頭補佐・坂爪昇平(さかづめ しょうへい)。ある事件が切っ掛けで二人は道を違えてしまったが、それでも友情は続いていた。台湾での取り引きの際、坂爪は一人の中国人女性を助ける。その女性──紀雪と恋に落ち、中国・雲南省で暮らすことになる坂爪。寂しさを覚えつつも、親友の結婚を喜ぶ入江。
 それから時がたち、入江のパソコンに坂爪一通のメールが届く。
「まずいことになった」
 それが、殺戮劇の始まりだった。


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 徳間書店での新刊『ブラッドバス』が発売されました。今まで何十冊も本を書いてきましたが、現時点、一番気に入っているのはこの本かもしれません。友情とハードボイルド、バイオレンスと冒険小説のテイストも組み合わせてみました。帯の推薦文は平山夢明先生。関係者の皆様、色々とありがとうございました。読者の皆さま、よろしくお願いします。
2011/09/13

個人的傑作映画ベスト五本、コメディ編。

>『深見先生の人生においてコレは見ておけな映画ランキングTOP5、銃火器編、恋愛編、アクション編をそれぞれお聞きしたいです』
>『人生で絶対に観ておいたほうがいい映画とか、初心者のひとにお勧めの映画とか、映画の観かたがあったら、よろしければ教えてください!よろしくお願いします!』

 というわけで、個人的ベスト映画五本、最初はコメディ編で。

1・『ズーランダー』
「3%の体脂肪率、1%の知能」
(キャッチコピー)



 超大物。スーパースター、ベン・スティラーが自ら監督・脚本・主演。心の底から大好きな一本。最近テレビでよく「ドヤ顔」という言葉が使われるようになりましたが、この映画の主人公の最大の武器は「キメ顔」です。友達に見せると賛否両論真っ二つになります。信じられないほど間抜けな男性スーパーモデル、デレク・ズーランダー(ベン・スティラー)が、国家元首の暗殺計画に巻き込まれる。豪華なカメオ出演に常識をふっ切った大量のギャグ。ベン・スティラーにオーウェン・ウィルソンという名コンビのやりとりがたまらない。言葉で説明するのが難しいので……なんだか一風変わったコメディが観たい気分の人におすすめです。

2・『トロピック・サンダー』
アクション超大作『トロピック・サンダー』撮影のため、ジャングルの奥地へと連れ出されたアクションスターのダグ・スピードマン、お下劣コメディアンのジェフ・ポートノイ、演技派俳優カーク・ラザラスらハリウッドのトップスター三人組。しかし何も知らない彼らが降り立ったのは、本物の戦場だった!
(DVDの内容紹介より)
 ベン・スティラー主演二連発。
 ようするにこの俳優さんが大好きなんでしょうね、僕は。
 コメディ映画には大きく分けて四つの構造があるんじゃないかと思っています。「勘違い系」「秘密を巡るドタバタ系」「ギミック系」「シュール・勢い系」です。先述の『ズーランダー』は「シュール・勢い系」と「秘密を巡るドタバタ系」の混合型。この『トロッピック・サンダー』は「勘違い系」にあたります。同じ「勘違い系」には、たとえば『サボテン・ブラザーズ』という傑作も(設定に共通点も多いので、気になるかたにはサボテンもあわせて観賞するのをおすすめ)。
 アメリカ映画には「残酷ギャグ」とでも呼ぶべき笑いがあります。これはもうそのままの意味で、人間が残酷に死んだり、死体がもてあそばれるさまを面白おかしく演出するという……不謹慎極まりないもの。グァムの映画館で経験したんですが、海外のお客さんは本当に派手に首が飛んだり手足が千切れるシーンで大爆笑するんですよ。『トロピック・サンダー』にも、そんな残酷ギャグがあります。日本人には馴染みの薄い笑いであり、これは合わない人はもう一生合わないでしょう。僕は山ほど残酷な映画を観ているうちに慣れてしまいました。

3・『ホットファズ』


 警察ものコメディ映画。公開時「面白い!」とあちこちで話題になったのでもう観賞済みの人も多いかも。日本版DVDには一部字幕の不具合があったらしいので、ちゃんとした形でブルーレイ版とか出ないもんでしょうか。ちなみに僕は海外版ブルーレイをチェックしたんですが(なんと日本語字幕つき)、特に不具合はありませんでした。『ホットファズ』には丁寧なキャラクター造形やひねりの利いた脚本などいいところがたくさんあり、特に僕が気に入っているのは『バッドボーイズ2』と『ハートブルー』を使った映画ギャグ。ホットファズの監督さんは『バッドボーイズ2』を「派手で最高の映画じゃないか!」と語っていたことがあって、深く共感しましたよ僕は。『バッドボーイズ2』は過小評価されてると思う! それはさておき、同じ監督(エドガー・ライト)の『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』も最高に素晴らしかった!

4・『カオルちゃん最強伝説』

 大阪岸和田を舞台に主人公たちが暴れまくる大ヒットシリーズ「岸和田少年愚連隊」の第6作は、ヤクザも道を空けると恐れられている、岸和田一の暴れん坊・カオルちゃんの高校時代を描いた番外編。中学卒業後、組関係からのスカウトを断り、『全校高校総番』になるためのみに高校に入学したカオルちゃん。彼の日々の高校生活は、ケンカ、ケンカ、またケンカ……そんなカオルちゃんの怒涛の高校生活を、アクションと笑いとちょっぴりほろ苦いドラマを交えて描く「岸和田版60年代青春グラフィティ」。カオルちゃんを演じるのは、「ミナミの帝王」シリーズや「DOA」など主演作はすべてヒットさせる竹内力。彼が今回挑んだのはなんと15歳の高校生。岸和田の名物男カオルちゃんの青春時代を、激しく、カッコよく、そしてコミカルに演じている。
(DVDの内容紹介より)
 あの竹内力がなんと高校生を演じる!
 そんな無茶をパワフルに押し切ってしまう個人的には邦画コメディ最強の一発。コテコテの人情話に爽快なアクションシーン。不良ものに抵抗のない人は、ぜひ騙されたと思って観てほしい一本です。……とかいって変な映画なのは間違いないので、全然合わなかったりしたらなんかもうあれです、すみません。岸和田少年愚連隊の番外編という位置づけですが、他の作品は観なくてもあまり困らない内容になってます。いきなりカオルちゃんからで大丈夫です。続編の『カオルちゃん最強伝説 ロシアより愛をこめて』『カオルちゃん最強伝説 番長サッカー』も面白いですよ!

5・『ビッグヒット』

 殺し屋アクションコメディ! 主人公は凄腕のヒットマンですが、女性にだらしがなく、しかも気弱で繊細で神経質なので常時胃薬が手放せない。そんな主人公がその人の良さを他人に利用されて次々と事件に巻き込まれていく。ちゃんと期限までに借りっぱなしの『キングコング2』を返却し、ボスの知り合いの娘をついうっかり誘拐してしまった件に決着をつけ、最悪な恋人たちに別れを告げることができるのか!
 スタイリッシュなアクション、そして脱力系のギャグ。全体に漂ういい意味でのボンクラ臭。昔、劇場で観賞した際にパンフレットを買ったら、映画ライターのギンティ小林がこの映画のことを「ハリウッド発テレビ東京行き」とを表現していてそのあまりのしっくりくる感じに膝を打ちました。

番外その1・『ジャッカス』


 ここからは番外です。まずは『ジャッカス』劇場版。愚かなスタントマンたちが、危険なことから超下品なことまで、どうしようもないチャレンジを繰り返す。アメリカでは果たしてこれが「映画」なのかどうか議論がされたとか。個人的にはスクリーンで上映されたらそれはすべて映画だと思います。とにかく牛やスタンガンの出番が多いのが特徴。下品なネタは本当に下品なので、おすすめとか言いつつ決して万人向けではありません……。

番外その2・『リトルトウキョー殺人課』



 純粋なコメディではないので、この映画も番外で。「真面目に作った映画を(笑いの)ネタ扱いする」というのはあまり好きではないんですが、時々愛情をもってそう扱うしかない作品と巡り合うことがあります。その中でも、僕のベストに位置しているのがこの『リトルトウキョー殺人課』です。今まで観てきた中で、最も爆笑した映画かもしれません。ドルフ・ラングレンとブランドン・リーの二人が刑事としてコンビを組み、アメリカのリトルトウキョーで暴力団がらみの事件に立ち向かう……こう書くと普通の内容ですが、ちょくちょく入ってくる日本文化描写がいちいちとんでもない。本当に見どころたっぷりの傑作。変な日本語! 日本刀! 盆栽クラブ! 女体盛り! 力士! 切腹! 僕がどれくらいこの映画が好きかと言うと、DVDショップで見かけるたびにこの作品を購入し、まだ観ていないという友人に配っているほどです。
2011/09/09

最近観た映画の話。

 水着美女と残酷シーンがすべての映画『ピラニア3D』観てきました。海外版ブルーレイで観賞済みだったので、日本語吹き替え版で。本当に大好きです、この映画。でも声優に挑戦した出川哲郎が「ちょ、痛い。リアルに痛い」とか言って笑かしにくるのはどうかと思いました!
 ゲスト出演したイーライ・ロス(『ホステル』監督)の役名が「ウェット・Tシャツ・ホスト」というのも素晴らしいです。「シャツを濡らすぞー!」という絶叫に、個人的にはアカデミー助演男優賞をあげたい。映画『スタンド・バイ・ミー』で太っちょ(バーン・テシオ)をやったジェリー・オコンネルが、物凄く下品なキャラクターを楽しそうに演じているのにも、ほっこりした気分になりました。あのキャラだけでピラニア名言集が作れそう。「俺が『オッ』と言ったら、お前らは『パイ!』と叫べ!」

 そしてイタリア映画『明日のパスタはアルデンテ』を観賞。面白かったー! コメディには「勘違い」系と「秘密を巡るドタバタ」系があって、この映画は後者(もう一つ「ギミック」系コメディもあるんですがそれはまたン別の機会に)。主演の俳優さんがやる、死んだ魚のような目が好きです。



『マッハ! ニュー・ジェネレーション』のDVDが届いたので観賞。全盛期のジャッキー映画並みのスタントが連発する凄まじいアクション映画。一番驚いたのは走るトラックの「下」で戦うシーン。「上」でもかなり危ないだろうに! 立ち回りに鉄パイプ(鉄筋?)みたいな武器を振るうシーンがあって。その鉄パイプを相手に打ち付けた瞬間、凄くリアルな、嫌な曲がり方をするのがなんていうかもう……。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスみたいなヤツVSムエタイというバトルがあって興味深かったです。不死身の殺人鬼っぽいヤツ相手にも、とりあえず左ミドルから入るのか! と。



『カンフーパンダ2』観てきました。まさかの号泣。もう本当に面白かった! 背景や建物が凝っているので、やっぱり3Dがおすすめ! ジャンルが違う映画を比較してもあんまり意味がないんですが、このままいくと今年の個人的ベスト10入りは確実(『ピラニア3D』も)。もう一回観に行きます。吹き替え版で観ても面白かったのですが、オリジナルだとミシェール・ヨーやヴァンダムが声優として参加しているんですね。ヴァンダムが演じるマスター・ワニが、ちゃんと「180度開脚キック」をやるというサービス精神が凄い!

 実写版『キング・オブ・ファイターズ』。今年観た映画のワースト候補です。サブマシンガンを乱射するルガールって斬新かもしれない。ホッケーマスクにローラースケートを装着したルガールが、バイスとマチュアに襲いかかるというのも斬新かもしれない。そしてルガールが絶叫。
「これはゲームじゃないんだぞ!」

 少女暗殺者逃避行、映画『ハンナ』観賞。エリック・バナの演技とケミカル・ブラザーズの音楽は良かったんですが、個人的にはいまいちに感じました。「主人公は凄く強いのに、行動や考え方が中途半端で、周囲の人間がどんどん巻き込まれてひどい目にあう」という構造の作品があんまり好みじゃないみたいです。とか言いつつ、主人公ハンナの決め台詞「心臓、外しちゃった」は超可愛いと思う。
2011/09/07

いくつかお知らせ。

 いきなりですが、読者のみなさんにお詫びが一つ……9月予定だった富士見ファンタジア文庫『GENEZ‐7』発売延期となりました。新しい発売日が決まりましたら報告いたします。すでに予約なさっている読者様、楽しみにしてくださっている読者様、申し訳ありません……! 徳間の新刊『ブラッドバス』は予定通りです。

 発売日まで隠しておくつもりだったのですが、amazonの書影にはっきり出てる! 『ブラッドバス』では帯に平山夢明先生からのお言葉をいただきました。『ダイナー』も『独白するユニバーサル横メルカトル』も、怪談系や犯罪系の著作も大好きで本当に尊敬する先生の一人です。最初「平山先生に!」と言ったときにはまさか実現するとは思ってませんでした。ありがとうございました!
2011/09/03

つながる映画の話。

 ツイッターでのことなんですが、
『深見先生の人生においてコレは見ておけな映画ランキングTOP5、銃火器編、恋愛編、アクション編をそれぞれお聞きしたいです』
 というリクエストがちょっと前にありました。
 そしてWEB拍手にもこんなコメントが。

> パラベラム最終巻読みましたーもうとっても良かったです!一兎としふぉにはぜひ幸せになってほしいと思います。。映画部のみんなを見ていたら映画をたくさん観たくなりました。映画鑑賞はぜんぜんしないビギナーなのですが、人生で絶対に観ておいたほうがいい映画とか、初心者のひとにお勧めの映画とか、映画の観かたがあったら、よろしければ教えてください!よろしくお願いします!

 せっかくなので、じゃあ今回からしばらく映画関連の更新を続けます。
「観ておいた方がいい映画」……難しいお題をいただきました。
 映画を観賞することは、別に義務化されているわけではありません。読書やゲームもそうです。人間は衣食住で生きていけます。そういったことを踏まえたうえで、なお「観ておいた方がいい映画」があるとすれば、それは人生を豊かにするものということでしょうか。役に立つ立たないとかではなく、その時間は豊かであるか否か。これも個人差がかなりありそうで、やっぱり難しい。

 過去の名作を知っていると、その影響下にある作品を観賞したときに面白さが増すことがあります。過去と現在が、思わぬところでつながっている。たとえばモンゴメリー・クリフトとバート・ランカスターの『地上より永遠に』という映画があって。アニメ『ストライク・ウィッチーズ』の第二期最終回のサブタイトル『天空より永遠に』は、そのオマージュ。
『地上より永遠に』は太平洋戦争開戦直前のハワイの米軍基地が舞台。主人公はラッパ吹きなので、ちょっとだけ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』を思い出したりもします。
「軍隊に入らなきゃラッパも吹けなかった」……モンゴメリー・クリフト演じる主人公ブルーイットの台詞です。もしかしたら制作スタッフも意識したのかもしれない……そんな想像をすると、ますます作品に対する愛着が深くなるような気がします。
 今回の更新では、今も誰かに影響を与え続ける過去の傑作映画五本を紹介。超有名どころばかりなので「もう観賞済み!」という人も多いでしょうが……。暇なとき、レンタルビデオ店で映画を選ぶ際にでも参考になれば幸いです。

1・『ローマの休日』


 これはもう説明不要でしょう。ただ名作というだけでなく、恋愛映画、コメディとしても大好きな一本です。ローマの休日に影響を受けた作品やオマージュを捧げた作品は多すぎて数えられないほどです。ヒュー・グラントの出世作『ノッティングヒルの恋人』から、『ガンダムUC』や『ストライク・ウィッチーズ2』の第五話まで。幅広く。脱け出した王女様が、寝ぼけたまま新聞記者(グレゴリー・ペック)についていく出会いのシーン、今見てもあまりに可愛くて魅了されます。

2・『カサブランカ』
 僕の亡くなった父も大好きな映画でした。
 物語の舞台は、第二次世界大戦中、ナチスの統治下に置かれたモロッコの都市カサブランカ。
 ロマンティックなラブストーリーと抵抗運動のサスペンスが同時に描かれます。
 陳腐な表現になりますが、この映画で初めて「男の美学」みたいなものを意識しました。
『鷲は舞い降りた』(翻訳・菊池光 ハヤカワ文庫)の完全版には、佐々木譲先生のこんな解説が掲載されています。一文引用で。

 この事実は、本書がすでにこのころ、英語圏の男たちにとって「基礎教養」となっていたことを示している。(中略)もっと言ってしまえば、いまや本作品は、映画の場合の『カサブランカ』に近い位置にあるのではないか。『カサブランカ』は、ファッションとかエンターテイメントを語るとき、知らなければ話にならないという基本的な素材の一つだ。

『ヘルボーイ』という海外の漫画を読んでいたら、敵の支配下にある夜の空港に忍びこんだ主人公が「あたりはナチだらけでカサブランカのラストみてえだ」と言うシーンがあって。本筋には直接関係ありませんが、この映画を観ていることが前提のギャグなんですよね。

3・『市民ケーン』
 この映画の技法が世界の映画人に与えた影響は計り知れないものがある。例えば手前の人物と奥の人物の焦点をぴたりと合わせる事によって、二人の人物の心の動き、画面の奥行きを表現するパンフォーカス。鏡を多用して一人の人物の表情をあらゆる角度から捉える鏡の技法。わざわざセットに穴を掘りキャメラの目をうんと低くして人物の心理を捉えるローアングルのテクニック。数えあげればきりがない。ある大人物が「バラのつぼみ」という謎の言葉を残して死ぬ。その真実を求めてジョセフ・コットンの新聞記者が大人物の足跡をたどっていく。
(DVDの内容紹介より引用)
 ラスト、「バラのつぼみ」の意味がわかった瞬間、ぐっときます。謎の言葉を切っ掛けに、好奇心を刺激された新聞記者が、すでに死んでしまった新聞王の心に深く切り込もうとする。執拗に描かれる孤独と喪失。この映画についてはあちこちで散々語り尽くされているので、今さら僕が付け足すことなんてほとんどありません。人間の複雑さを描くために必要だった複雑な編集と脚本。最近だと、デビッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』が『市民ケーン』を強く意識しつつ制作されたとか。

4・『街の灯』
 監督主演チャールズ・チャップリン。
 街の貧乏な放浪者が、目が不自由なやはり貧しい花売りの娘に恋をする。
「お釣りはいらない」
 親切にされた娘は、放浪者のことを大富豪の紳士と勘違いしてしまう。
 放浪者は彼女の目の手術のため必死に働いて金をためようとするが……。という物語。



 無声映画とトーキーのほぼ中間という、若者にはかなりハードルの高い映画なんですが、それでも一見の価値はあると思います。コミカルでロマンティックで、ほろ苦い。後半は結末を知っていてもハラハラします。チャップリンだと『ライムライト』や『独裁者』も好きなんですが、ここは『街の灯』で。やはり笑いの基本は登場人物たちの「勘違い」なのかもしれません。お笑い芸人アンジャッシュのコントや漫画『それでも町は廻っている』なんかでよく描かれる要素です。あと、チャップリンの映画を見ると、ジャッキー・チェンが本当に強く影響を受けていることがわかる。他にも、ジャッキーはバスター・キートンへのオマージュやリスペクトも凄いです。それはまた別の機会に。

5・『十二人の怒れる男』

 17際の少年が父親殺しで起訴された。事件を審議する12人の陪審員のうち、11人の結論は有罪で一致。しかし、8番陪審員だけが有罪の根拠がいかに偏見と先入観に満ちているかを主張する。審判には12人全員の一致が必要だが、次第に少年の無罪を示唆する証拠が浮かび上がり、ひとり、またひとりと審判をひるがえしていく……。
(DVDの内容紹介より引用)

 密室劇の原点にして到達点と言ってもいいのではないでしょうか。制作は1957年。監督シドニー・ルメットはすでに故人ですが、映画にこめられた「まず、話し合う」という力強いメッセージは今もなお色あせることがありません。「本気で無罪を?」と訊かれても、主人公の8番陪審員は「分からない」と答える。「何をしたい?」と訊かれたら「話し合う」と答える。
 他の陪審員は「百年話しても同じだよ」と言う。
 しかし、8番陪審員は自分の主張を曲げない。
「11人が有罪だ。私が賛成したら簡単に死刑が決まる。人の生死を五分で決めて、間違ったら?」
 初めて観賞したあとの心地よい疲労感が忘れられません。
 今回あげた五本の中では一番好きな映画です。

 というわけで今回はここまで。
 これから恋愛映画やコメディ、ホラー、格闘アクション、銃撃戦……いくつかのジャンルに分けて鉄板のおすすめを紹介していきます。
 最後に、なぜ過去の名作を押さえておくのが大事なのか、進化生物学・生物統計学の専門家である三中伸宏の著作、講談社現代新書刊『系統樹思考の世界』より一部引用で。

 単純な事実とは──「進化」するのは〈生きもの〉だけではないということ。時間の経過とともに、生物と無生物の別に関係なく、自然物と人造物のいかんを問わず、過去から伝わってきた「もの」のかたちを変え、その中身を変更し、そして来たるべき将来に「もの」が残っていく。私たちが気づかないまま、身の回りには実に多くの(広い意味での)「進化」が作用し続けています。
2011/09/02

Rebisさんの単行本

『武林クロスロード』でお世話になったRebisさんの単行本が発売中。
 早々と重版がかかったようでめでたい! お祝いの意味も込めて、Rebisさんの本に寄稿した解説文を、ブログ用に書きなおしたものを掲載します。

ふたなり迷宮王女~プリナと淫魔の迷宮 (OKS COMIX)
(成年向けなので未成年はクリック禁止で)

 少女たちが地下迷宮で様々な難関を潜り抜けていくファンタジー。
 もともと僕はRebisさんの漫画の大ファンで。
 こうやって単行本にまとまるとさすがに読み応えがあります。やっぱり面白かった!
 この漫画の魅力を伝えるためにちょっとだけ脇の話から進めていきますね。
 僕にとってファンタジーといえば、ロバート・E・ハワードの小説です。シュワルツェネッガーによって映画化もされた、〈キンメリアの英雄コナン〉シリーズ。リン・カーター(訳、中村融)による『ファンタジーの歴史』(東京創元社)の中で、コナンシリーズはこう紹介されています。
(一部引用)
 ハワードが書いたのは、すさまじいまでの活力がみなぎった躍動的でカラフルな小説だった──血なまぐさい戦闘、筋骨隆々の英雄、野蛮な女たちであふれかえった物語だ。

 この文章は、Rebis作品にも使えるものだと感じました。迷宮王女シリーズの場合、「血なまぐさい戦闘」のかわりに「体液がほとばしるパワフルなセックス」となる。フロイトの言葉を引くまでもなくエロスとタナトスは表裏一体のものなので、戦闘とセックスを置き替えても意味は通じる。
 ロバート・E・ハワードのバーバリアン・コナンシリーズと迷宮王女シリーズには、他にもいくつか共通する魅力があります。そのうちの一つが、「世界観の作りこみ」です。ハワードは、コナンが活躍するキンメリアの世界を本当に細かいところまで設定しました。国家、文化、民族、地理、風俗、歴史──こう書くと当たり前のことのようですが、標準的なファンタジー小説よりも圧倒的に情報量が多いんです。たとえばこんな感じ。
 創元推理文庫の新訂版コナン全集より一部引用で。

 もともとハイポリアの諸部族には、南方への肥沃な土地への移住を望む欲求があったが、人口の増大に伴って、その傾向がますます強まった。次の数世紀は、移動と侵寇の時代であった。古来、人類世界の歴史は、民族間の移動で絶えず場面を転回するパノラマといえるのだ。
 たとえば、その五百年後における大陸の情勢を見るがよい。黄茶色の頭髪を持つハイポリア人が、南方と西方へ移動を続け、団結を欠く弱小氏族の多くを征服し、被制服氏族の血を吸収することによって、もともと古い種族の末裔であるものたちが、新しい特徴を示し始める。この混成人種が、ふたたび新しい純血種族の侵寇を受け、ついには掃討される。


 ──以上のような設定が、原稿用紙何百枚分も用意されています。もちろん、そのすべてが本編に登場することはありません。あくまで、物語のテンポを崩さないように、いわゆる裏設定が顔を出すのは必要最低限です。
 ファンタジーにおいて世界観は巨大な柱と言えます。しかし一歩間違えると設定ばかりに凝って、物語としての面白さを失ってしまう危険性も胚胎している。物語性破綻のリスクを回避しつつ、いかに世界を創造するか──。その重要性は、先ほども登場したリン・カーター著『ファンタジーの歴史』の中でわかりやすく説明されています。

 この短編の中で、若き英雄レオスリックがドラゴンのサラガヴヴェルクを倒し、霊剣サクノスを手に入れる。それがあれば邪悪な魔術師ガズナクを滅ぼせるからだ。ここから、スパイ小説の作者が頭を悩ませなくてもすむ問題を、ファンタジー作家が解決しなければならないことが明らかになる。読者と同じ世界を共有するどころか、ファンタジー作家は新しい世界の創造に関わるのだ。しかも彼が話題にしているものに読者が慣れ親しんでいるとは当てにできないのだから、ひと筋縄ではいかない。というのも、じっさいに途方もなく遠くへ旅行していないかぎり、読者がドラゴンを目にしたことは──もっとも珍奇な動物園でさえも──ありそうにないし、邪悪な魔術師に出会ったこともありそうにないからだ。あるいはサクノスのような霊剣は、この世界の一番有名な博物館でさえ一般公開されていないからだ。
(中略)
 あらゆるファンタジー作家が読者に頼まなければいけないことは、コールリッジの名言を借りれば、「自発的な不信の停止」である。


『迷宮王女』シリーズの世界観は、
「大母神権制の王家に伝わる最強の避妊魔法」
 といった、ちょっとした台詞からも伝わってきます。台詞は断片にすぎませんが、背景がしっかりと作りこまれていることがわかる。父権社会ではない、女王制である、避妊魔法があるということは、王家の妊娠は重大な意味を持つらしい、などなど……。これがきっと、「自発的な不信の停止」を喚起するための重要な装置になる。
 他にも、この単行本に収録されている番外編で、冒険者のパルハが「いいか、こいつは族長だ。オークってのは強い奴が弱い奴に乗っかるから……」と捕虜を品定めするシーンがあって、僕はそのくだりが大好きなんですね。短い台詞で、『迷宮王女』の世界におけるオーク族の設定とエロスを同時にさりげなく表現されている。随所に散りばめられた世界観の作りこみを示すサインは、ただの小道具ではなく、そのあと行われる行為を盛り上げるのにも一役買っている。
 Rebis作品のキャラクターデザインには、確かな情報量と肉体的な説得力がある。キャラクターたちの体形の違いは、種族の違いを表現しています。劇中登場するブラックオークたちは戦士階級なので(魔法が得意そうにも見えない)、わかりやすく筋骨隆々です。大量に登場するサキュバスたちも、その外観だけでなんとなく役割や得意技がわかるようになっている。背景のモブキャラにいたるまで裏設定を匂わせるようにデザインされている。そしてすべてが、架空のファンタジー世界に血と肉を通わせるために必要なことなのです。

『迷宮王女』シリーズの魅力──内側からわいてでくるマグマような性欲と獣性の祭典。緻密な世界観と圧倒的なオリジナリティ。本能を刺激する驚くべきシーンの数々。なにしろ純粋な意味では男性が一人も登場しないという特殊な成年漫画なので、好き嫌いははっきりわかれるでしょうが、一人でも多くの人に読んでほしい一冊です。
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