2012/07/24

新刊『僕の学校の暗殺部』

 新刊『僕の学校の暗殺部』が7月30日ごろから発売となります。ファミ通文庫の公式サイトにて、ちょっとした特集を組んでいただきました。ありがとうございました!
(ファミ通文庫公式、特集ページ)
http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/02sp/02_1208ansatsubu/index.html
 また、別のページで表紙画像などもチェックできます。
(ファミ通文庫公式、新刊紹介ページ)
http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/08shinkan/08shinkan.html#_01

 ……とまあ、以上が宣伝なわけですが、これだけでは味気ないので、最近クリアしたゲームや読んだ本の話でも。新刊がガンアクション青春小説なので、今回の更新も銃器・銃撃戦に絡めた内容で。
 まずはゲームです。『ゴーストリコン フューチャーソルジャー』
(日本語吹き替え版予告編)


 最先端科学技術を導入した、アメリカが誇る精鋭特殊部隊「ゴースト」。しかしゴーストの一分隊が、武器密輸グループを追跡中、敵の罠にかかって壊滅してしまう。仲間の仇をうち、ロシアの巨大テロ組織「レイブンズロック」を叩き潰すために、主人公たちのチームが投入される。始まりはニカラグア、そして戦場はボリビアへ、さらにザンビア、ナイジェリア、北極圏、ノルウェー海、シベリア、モスクワ……。
 物語的には引っかかることもあるにはあるんですが、テンションの高いアクションと見所の多いミリタリー描写のおかげで最後まで本当に楽しかったです。『ゴーストリコン』シリーズは、いつも「現実よりもちょっと先」の戦場を描写しようとするのが特徴でしょうか。光学迷彩で身を隠し、小型のドローンで偵察し、センサーグレネードを投げ込んで敵の位置をたしかめる……。未来の戦場には、いかにも「ありそう」なものばかりです。「ああ、こういう兵器・ロボットはできそうだなあ」と思わせてくれる。スタッフは「エンターテイメント性を損なわない、リアリティのギリギリのライン」を追求している。
 僕のお気に入りは、「マグネティック」という照準装置。磁気反応を解析して、金属を通過するような視界を与えてくれます。なんだかこう、映像として面白く仕上がっている。カスタムされた銃、最先端の照準装置、光学迷彩などがワンセットになって、一人の兵士が「人間ではなくなった」ような奇妙な感じ。ほとんど「プレデター」になった気分。
 あと、ロンドンがミサイル攻撃されるシーンが凄かったです。ロンドン上空でミサイルが炸裂し、爆風で周辺ビルの窓ガラスが一斉に割れて──それこそ何万枚という数が──破片の豪雨と化して地上に降り注ぐ。そのときの地上の混乱ぶりが、これもまた「ありそう」な感じなんです。「見たことはないけど、本当にこんなことが起きたらこうなるかも」という……。僕はこういう「ありそうでなかった」映像を見せてくれた作品には高い満足度を覚えます。成層圏からのダイビングシーンという見所も!

 次は読書。マット・リン著『無法海域掃討作戦』

 元SASの主人公スティーヴと、ギャンブル好きでお調子者の相棒オリーが傭兵として世界中で戦うシリーズの第三弾。今までで一番面白かった! 濃厚な銃器・戦闘描写を堪能しました。「水上作戦では、いざという時溺れないようにブーツに穴を開けておく」とか、本当かどうかは知りませんが細かい! あと、キャラクター同士の会話(いわゆるハリウッド映画的軽口)が凄く楽しいです。仲間の一人。元IRA技術兵のセリフ。
「実は、おれたちはぼんくらなんだ」イアンがいった。「尻の穴と肘のちがいもわかんねえ」
 で、銃器描写です。序盤から、予備の拳銃としてブラジル製のトーラス(タウルス)の名前が出てきます。トーラスの銃って、ちょっとこだわりがないと出てこないと思うんですよ。さらに、主人公が敵のAK47を奪うシーンで、「ベネズエラ製だ」という文章が。「安っぽい模造品とはわけが違う。ベネズエラ工場は、ロシアのイジェフスク機械制作工場によって建造され、何十年にもわたってこのアサルト・ライフルを製造してきた。ここのAK47は、威力、速さ、扱いやすさの麺で、旧ソ連のオリジナルに匹敵する」
 AK47が登場する小説は山ほどありますが、その生産国まで触れるものは珍しいです。
 そして、この第三弾の舞台は海。装備を整えるシーンで、仲間の一人が注文します。
「HK P‐11はないか?」
 水中銃です。H&KのモデルP11水中ピストル。長い間NATOで軍事機密とされていた銃で、いまだに詳細な性能は公表されていないとか。こういうセリフがすっと出てくるところに痺れますね……! そして水中銃といえばAPS! 旧ソ連の特殊部隊向け水中アサルト・ライフル。ストーリーに関わることなので詳しくは書きませんが、APS、印象的な使われ方をしますよ!

 トム・ウッド著『パーフェクト・ハンター』

 上下巻、一気に読んでしまいました。
 たぶんこの作家さん、スティーブン・ハンターやラドラムが大好きだと思うんですよね。
 主人公はプロの暗殺者ヴィクター。依頼にしたがってある男を殺し、フラッシュメモリーを奪う。その瞬間から、ヴィクターは狙われる側に。次から次へと殺し屋や特殊部隊に襲撃されることになる。事件の謎を解き、黒幕に反撃することはできるのか……という話なんですが、まあとにかくアクションシーンの連べ打ち。プロットはそれほど目新しくはないのに、先が読めない! 「シリコン溶液を手に塗り込むと、指紋は付着しない」といったディテールも読んで得した感がたっぷり。
 最初に主人公が使うのはFNファイブ・セブン。サプレッサーに亜音速弾。主人公はプロらしく、ちゃんとその弾丸の特性をいかした戦い方をします。
 室内戦、対スナイパー戦、カーチェイス、対ナイフ戦……アクションのパターンも豊富で盛りだくさん。主人公は基本的にコンパクトな拳銃が好きで、ベレッタ系が嫌い。そして、中盤でドラグノフも出てきます。
「ヴィクターのライフルはSVDの最新モデルの改良型で、銃床とハンドガードが、もともとの木製ではなく、軽量化のために高密度ポリマーでできていた」
 このライフルに二種類の弾薬を用意して使い分けたりします。
 作者さんもそのつもりで書いたんでしょうが、ものすごく映画化しやすそうな本です。仮に映画化するとしたら、「ジェイソン・ボーン」シリーズとの差別化をはかるために、マット・デイモンとはまったく違う方向の主演俳優がいいはず。「007」とカブるのでダニエル・クレイグもなし(それに、ダニエル・クレイグは僕の脳内妄想世界で『尋問請負人』の主演に決まっているし……)。そこで、『ブラック&ホワイト』や『ダークナイト・ライジング』で人気急上昇中のトム・ハーディなんかどうでしょう。監督は『ルール 無法都市』のウィリアム・カウフマンとか。
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2012/03/03

『ドライヴ』


 ジェイムズ・サリスの『ドライヴ』早川書房。本当は映画版がもうすぐ公開なのでそれまで我慢しとこうかと思ったんですが、結局読んでしまいました。最初の数ページで、もう止まらなくなってあとは一気に。映画版は、この原作に忠実であればあるほど素晴らしい傑作になっているはずです。僕のストライクゾーンのどまんなかに入る一冊でした。



『ドライヴ』の予告編を最初に見たときは、ウォルター・ヒルの『ザ・ドライバー』のリメイクか、あるいはそれに強く影響を受けた映画かと思いました。実際、原作には『ザ・ドライバー』を意識したと思われる要素がいくつかあります。たとえば、主人公の名前が登場せず、劇中ずっとただの「ドライバー」としか呼ばれないこと。犯罪者のための運び屋であること。そして、主人公が劇中で演じるスタントの一つが、明らかに『ザ・ドライバー』のワンシーンっぽいこと。でも、もちろん、仕上がりは全然別物です。
 この映画原作『ドライヴ』。手触りにたとえると「ザラッ」とした感じの小説でしょうか。ちょうどこんな本が読みたい気分だったんです。フィッツジェラルドとチャック・パラニュークを足して二で割って暴力を追加したようなイメージ。主人公の「ドライバー」は、性格はおとなしくて真面目、冷静沈着、話し方も理知的、それなのにいざとなると人を殺すことにまったくためらいがない、という……僕が死ぬほど好きなタイプです。
 物語が進むと、こっちが予想した展開をことごとく裏切っていくんですよね。ちょっと調べてみると、どうやらこの定石の外し方が作者であるジェイムズ・サリスの特徴みたいで。感動的なシーンほど淡白に描くんです。その計算された淡白さと無駄のなさのおかげで、こちらは物語に感情をのせやすい。想像力を使って作中の「空気」を楽しむことができる。特に印象的なのは、主人公の母親に関する回想。日常のなんてことない一コマを切り取って、些細なきっかけで人間の心が折れる瞬間を活写します。映画版の公開が楽しみで楽しみでたまりません。
2011/10/12

読書のための映画観賞。



 高野和明先生の『ジェノサイド』が本当に面白かったので(ちょっと「今頃かよ!」という感じもするのですが)、このブログで記事にすることにしました。冒険小説であり、SFであり、王道であり重厚な父と子のドラマでもあります。バグダッドで仕事をしていた傭兵と、日本の大学院生。普通なら無関係のまま終わったであろう二人の人生が、ある事件をきっかけに交錯する──そんな話なんですが、なるべく予備知識なしで読み始めるのをおすすめします。僕も『ジェノサイド』本編の「ここがよかった!」みたいな話は書きません。書評みたいなものは、もうあちこちで見ることができると思いますし……。
 というわけで、今回の更新は「『ジェノサイド』をもっと楽しむための映画三本」です。この本を「ハリウッド映画的!」と褒める意見はよく聞きます。じゃあ、具体的にどの映画なのか? 「映画みたい」「映画をしのぐ」というだけじゃあんまり褒め言葉になってないと思うんですよ。ちゃんとタイトルをあげなきゃ意味が薄くなるのではないか、と。そこで、まずは……。

1・『ティアーズ・オブ・ザ・サン』

 アメリカ海軍特殊部隊シールのウォーターズ大尉にとって、それはごくありふれた任務に思われた。「アメリカ国籍の女医リーナ・ケンドリックスを救出せよ」ウォーターズと7人の部下はリーナが治療にあたっている内戦下のナイジェリアの村に到着。あとはヘリとの合流地点に移動するだけ……。
 だが思わぬトラブルが発生し、300人を超える敵に囲まれてしまう。
 困難な状況から無事に脱出することが出来るのか

(DVDの内容紹介より)

『ジェノサイド』の劇中、ある目的のために集められた傭兵部隊がアフリカ大陸コンゴ民主共和国の密林を進むシーンがあります。その情景を思い浮かべる際、頭の片隅でぼんやりと映画『ティアーズ・オブ・ザ・サン』を意識していました。そのせいで、『ジェノサイド』の主人公の一人、傭兵のジョナサン・イエーガーは(僕の中では)ブルース・ウィリスのイメージです。イエーガーたちの装備は米軍提供のものなので、具体的に彼らがどんないでたちでどんな動きをしているのか──この映画をあわせて見ておくと、より文章がリアルに感じられるのではないかと思います。

2・『ジョニー・マッド・ドッグ』


 相次ぐ内戦で混乱するアフリカ。そこには反政府軍を名乗り、虐殺・レイプ・強盗など暴虐の限りをつくして人々を恐怖に陥れる少年兵のコマンド部隊があった。
『マッド・ドッグ』と呼ばれ、部隊のリーダーである15歳のジョニーは、彼の右腕『ノー・グッド・アドバイス』ら荒くれ者たちを率いて、ありあまるエネルギーを戦闘で爆発させていた。残酷な殺戮をくりかえしながら大人さながらに隊長から受けた命令を遂行していく少年兵たち。
 一方、ジョニーたちによる街への進攻が迫る中、13歳の少女ラオコレは、戦争で両足をなくした父親の命令で、8歳の弟フォフォを連れて2人で逃げていた。
 しかし、ラオコレたちは、隠れているところをジョニーに見つかってしまう。ところが何故かジョニーは彼女たちに銃を向けずに去ってしまう。ジョニーから逃れた彼女は弟をビルに隠し、動けずに家に留まった父親を助けに家へ向かうのだが……。

(DVDの内容紹介より)

『ジェノサイド』にはいくつもテーマがこめられていますが、そのうちの一つが「少年兵」です。ニュースやドキュメント番組でも扱われることの多いこの題材。この少年兵の恐怖と絶望を扱った映画の中で、最もストレートで最もわかりやすいのがこの『ジョニー・マッド・ドッグ』ではないでしょうか。いわゆる爽快感のある映画ではありませんし、後味もかなり悪いのですが、観客の心に重い何か残す、というのはこの種の作品にとって重要なことです。

3・『ワールド・オブ・ライズ』


 世界を救おうとする2人の男。CIA工作員のロジャー・フェリス(ディカプリオ)と、彼の上司であるベテラン局員、エド・ホフマン(クロウ)。
 フェリスは、世界中の情報網の中枢に潜入し、現場を知らない上司にキレながらも、命を張って働く男。一方のホフマンは、平和な自宅や安全な本部から電話一本で命令し、部下の意見は無視する冷酷な男だ。
 そんな生き方も考え方も違う2人の目的はひとつ。地球規模の爆破事件のリーダーを捕まえること。
 足跡すら残さない正体不明の犯人をおびき出せるのは、「世界一の嘘」しかない。フェリスとホフマン、そして他国の諜報部の、息もつけない頭脳戦が始まった!
 果たして世界を救うのは、いったい誰のどんな嘘か
(DVDの内容紹介より)

『ジェノサイド』には情報戦、電子戦、最新の無人機描写といった、国際謀略スパイ小説的な面白さもあります。実際にアメリカが国外で秘密作戦を実行するとどうなるのか? それを知るための良質なノンフィクションは何冊も出ていますが、映画ならこの『ワールド・オブ・ライズ』がおすすめ。細部の描写はそれほどマニアックではありませんが、予算のかかった映像だととにかく雰囲気がつかみやすい。ディカプリオがかなりきつめの拷問をされるという、ファン(?)必見のシーンもありますよ!
 現在、戦場の最新テクノロジーがどこまで進んでいるのか。もっと詳しく知りたい人には、井上孝司先生の『戦うコンピュータ2011』をおすすめしておきます。兵器のIT化、無人ヴィークル、軍用コンピュータとCOTS化、ネットワーク中心戦……リアルにやればやるほどSFに近くなっていく時代です。



 他にも『ジェノサイド』を読んで思い出した映画は何本かあるのですが、迂闊に全部書いていくとネタバレになっちゃう危険性もあるんですよね……。というわけで、今回はこんなところで。最近また少し忙しくなってきて、生涯のベスト映画をジャンルごとに五本紹介する記事が「コメディ編」で止まったままです。でも、そのうち続きもやりますよ! 
2011/09/02

Rebisさんの単行本

『武林クロスロード』でお世話になったRebisさんの単行本が発売中。
 早々と重版がかかったようでめでたい! お祝いの意味も込めて、Rebisさんの本に寄稿した解説文を、ブログ用に書きなおしたものを掲載します。

ふたなり迷宮王女~プリナと淫魔の迷宮 (OKS COMIX)
(成年向けなので未成年はクリック禁止で)

 少女たちが地下迷宮で様々な難関を潜り抜けていくファンタジー。
 もともと僕はRebisさんの漫画の大ファンで。
 こうやって単行本にまとまるとさすがに読み応えがあります。やっぱり面白かった!
 この漫画の魅力を伝えるためにちょっとだけ脇の話から進めていきますね。
 僕にとってファンタジーといえば、ロバート・E・ハワードの小説です。シュワルツェネッガーによって映画化もされた、〈キンメリアの英雄コナン〉シリーズ。リン・カーター(訳、中村融)による『ファンタジーの歴史』(東京創元社)の中で、コナンシリーズはこう紹介されています。
(一部引用)
 ハワードが書いたのは、すさまじいまでの活力がみなぎった躍動的でカラフルな小説だった──血なまぐさい戦闘、筋骨隆々の英雄、野蛮な女たちであふれかえった物語だ。

 この文章は、Rebis作品にも使えるものだと感じました。迷宮王女シリーズの場合、「血なまぐさい戦闘」のかわりに「体液がほとばしるパワフルなセックス」となる。フロイトの言葉を引くまでもなくエロスとタナトスは表裏一体のものなので、戦闘とセックスを置き替えても意味は通じる。
 ロバート・E・ハワードのバーバリアン・コナンシリーズと迷宮王女シリーズには、他にもいくつか共通する魅力があります。そのうちの一つが、「世界観の作りこみ」です。ハワードは、コナンが活躍するキンメリアの世界を本当に細かいところまで設定しました。国家、文化、民族、地理、風俗、歴史──こう書くと当たり前のことのようですが、標準的なファンタジー小説よりも圧倒的に情報量が多いんです。たとえばこんな感じ。
 創元推理文庫の新訂版コナン全集より一部引用で。

 もともとハイポリアの諸部族には、南方への肥沃な土地への移住を望む欲求があったが、人口の増大に伴って、その傾向がますます強まった。次の数世紀は、移動と侵寇の時代であった。古来、人類世界の歴史は、民族間の移動で絶えず場面を転回するパノラマといえるのだ。
 たとえば、その五百年後における大陸の情勢を見るがよい。黄茶色の頭髪を持つハイポリア人が、南方と西方へ移動を続け、団結を欠く弱小氏族の多くを征服し、被制服氏族の血を吸収することによって、もともと古い種族の末裔であるものたちが、新しい特徴を示し始める。この混成人種が、ふたたび新しい純血種族の侵寇を受け、ついには掃討される。


 ──以上のような設定が、原稿用紙何百枚分も用意されています。もちろん、そのすべてが本編に登場することはありません。あくまで、物語のテンポを崩さないように、いわゆる裏設定が顔を出すのは必要最低限です。
 ファンタジーにおいて世界観は巨大な柱と言えます。しかし一歩間違えると設定ばかりに凝って、物語としての面白さを失ってしまう危険性も胚胎している。物語性破綻のリスクを回避しつつ、いかに世界を創造するか──。その重要性は、先ほども登場したリン・カーター著『ファンタジーの歴史』の中でわかりやすく説明されています。

 この短編の中で、若き英雄レオスリックがドラゴンのサラガヴヴェルクを倒し、霊剣サクノスを手に入れる。それがあれば邪悪な魔術師ガズナクを滅ぼせるからだ。ここから、スパイ小説の作者が頭を悩ませなくてもすむ問題を、ファンタジー作家が解決しなければならないことが明らかになる。読者と同じ世界を共有するどころか、ファンタジー作家は新しい世界の創造に関わるのだ。しかも彼が話題にしているものに読者が慣れ親しんでいるとは当てにできないのだから、ひと筋縄ではいかない。というのも、じっさいに途方もなく遠くへ旅行していないかぎり、読者がドラゴンを目にしたことは──もっとも珍奇な動物園でさえも──ありそうにないし、邪悪な魔術師に出会ったこともありそうにないからだ。あるいはサクノスのような霊剣は、この世界の一番有名な博物館でさえ一般公開されていないからだ。
(中略)
 あらゆるファンタジー作家が読者に頼まなければいけないことは、コールリッジの名言を借りれば、「自発的な不信の停止」である。


『迷宮王女』シリーズの世界観は、
「大母神権制の王家に伝わる最強の避妊魔法」
 といった、ちょっとした台詞からも伝わってきます。台詞は断片にすぎませんが、背景がしっかりと作りこまれていることがわかる。父権社会ではない、女王制である、避妊魔法があるということは、王家の妊娠は重大な意味を持つらしい、などなど……。これがきっと、「自発的な不信の停止」を喚起するための重要な装置になる。
 他にも、この単行本に収録されている番外編で、冒険者のパルハが「いいか、こいつは族長だ。オークってのは強い奴が弱い奴に乗っかるから……」と捕虜を品定めするシーンがあって、僕はそのくだりが大好きなんですね。短い台詞で、『迷宮王女』の世界におけるオーク族の設定とエロスを同時にさりげなく表現されている。随所に散りばめられた世界観の作りこみを示すサインは、ただの小道具ではなく、そのあと行われる行為を盛り上げるのにも一役買っている。
 Rebis作品のキャラクターデザインには、確かな情報量と肉体的な説得力がある。キャラクターたちの体形の違いは、種族の違いを表現しています。劇中登場するブラックオークたちは戦士階級なので(魔法が得意そうにも見えない)、わかりやすく筋骨隆々です。大量に登場するサキュバスたちも、その外観だけでなんとなく役割や得意技がわかるようになっている。背景のモブキャラにいたるまで裏設定を匂わせるようにデザインされている。そしてすべてが、架空のファンタジー世界に血と肉を通わせるために必要なことなのです。

『迷宮王女』シリーズの魅力──内側からわいてでくるマグマような性欲と獣性の祭典。緻密な世界観と圧倒的なオリジナリティ。本能を刺激する驚くべきシーンの数々。なにしろ純粋な意味では男性が一人も登場しないという特殊な成年漫画なので、好き嫌いははっきりわかれるでしょうが、一人でも多くの人に読んでほしい一冊です。